倫理学
精神医学の倫理学という分野は、昨今のメンタルヘルスケアの拡大に応じて開拓されつつあります。それに応じて、精神医学の実践において求められる倫理的要件が模索されています。精神疾患はたんなる脳の機能障害であり、脳波を計測することで機械的に診断可…
最近、「功利主義」「義務論」「徳倫理学」という規範倫理学の立場を使って、古典的立場を戦わせるような構造や、道徳的な問題を解決する思考実験によって「君は何主義かな」みたいなやり方に疑問を抱いています。そこで、現在定番となった競合する立場に古…
アリソンの最新著作の見取り図を提供することを目的にちろっと書いてみました。カント研究をしている、あるいはしていこうと思っている人たちの一助にでもなれれば幸いです。タイトルには「書評」なんてかっこつけて書きましたが、評するなんてたいそうなこ…
メンデルスゾーンはヴォルフ学派に属する思想家であり、ベルリン啓蒙の時代を生きた当時を代表する知識人である。 今回私が抄訳したテキストは、『形而上学における明証性についての論文』(Abhandlung über die Evidenz in Metaphysischen Wissenschat) であ…
カントといえば義務論、義務論といえばカント。これがいまだに倫理学の教科書の鉄板である。しかし、カントの義務倫理学は、カントがゼロから編み出した独自の思想ではない。倫理学における義務づけの思想は、18世紀ドイツにおける自然法論、とりわけグロテ…
デニスのこの論文はCambridge Companion to Kant and Modern Philosophy (2006) に所収されているもので、カントの徳概念について学ぶ者にとっては必読文献の一つといっても過言ではないと思っています。基本的なところが非常に明瞭に説明され、無視されがち…
Louden (1986) Kant’s Virtue Ethics 今回紹介するラウデンの論文は、カント倫理学が徳をどのように問題にしていたのかを、義務論倫理学の体系を守りながらも積極的に論じているバランスのよい論文である。最近翻訳が出版されたオニールの『理性の構成』に所…
Barbara Herman, The Practice of Moral Judgment. Cambridge, Haward University Press, 1996, pp. 73-93より。 ハーマンのこの論文は、格率の普遍化テストを意味あるものにするためには、状況に対する感受性が行為者に内面化されていなければならないと主…
ここでは、Timmermann (2016) の „Kant Über Mitleidenschaft“を紹介する。これはKant-Studien,107 (4), pp.729-732に収められた短い論考である。Mitleidenschaftというドイツ語は、翻訳者たちは見過ごしてきた馴染みがない表現 (ungewöhnliche Ausdruck) で…
英語圏やドイツ語圏のカント倫理学研究を独断と偏見で選定し紹介する試みを始めます。ほんの少しでもカント倫理学に関心のある方の参考になれば幸いです。 これは、Bittner (2001) "Doing Things for Reasons"の第三章「原理に基づいて行為すること」(Acting…
最近、シラーの『優美と尊厳について』を簡単な訳注つきで全訳しようと試みています。そんなことをしているうちに、ちょっとシラーの倫理学を若干真面目に紹介したくなりました。引用とかしっかりページ数を示していないのは、今回の紹介の内容上のいい加減…
前回の続きです。予告通り、個人の自由・自律と共通善の対立として、公衆衛生の倫理学について簡単に書きたいと思います。 医療倫理と公衆衛生の倫理学 医療倫理の問題として盛んに議論されるトピックは、パターナリズムと個人としての患者の自己決定の問題…
コロナウイルスの猛威は収束の気配を見せず、世界を騒がせている昨今ですが、みなさんはどうお過ごしでしょうか。できるだけ人混み、特に風通しの悪い密室空間は避け、基本的に自粛ムード、という方が多いかと思います。それの是非については何も言う気はあ…