カント
哲学者にとっての身体の医学について (原題: De Medicina Corporis, quae Philosophorum est) ここで扱うテキスト『哲学者にとっての身体の医学について』は、カントが1786年10月1日にケーニヒスベルク大学学長としての公開演説として行ったものです。テキ…
最近、「功利主義」「義務論」「徳倫理学」という規範倫理学の立場を使って、古典的立場を戦わせるような構造や、道徳的な問題を解決する思考実験によって「君は何主義かな」みたいなやり方に疑問を抱いています。そこで、現在定番となった競合する立場に古…
アリソンの最新著作の見取り図を提供することを目的にちろっと書いてみました。カント研究をしている、あるいはしていこうと思っている人たちの一助にでもなれれば幸いです。タイトルには「書評」なんてかっこつけて書きましたが、評するなんてたいそうなこ…
デニスのこの論文はCambridge Companion to Kant and Modern Philosophy (2006) に所収されているもので、カントの徳概念について学ぶ者にとっては必読文献の一つといっても過言ではないと思っています。基本的なところが非常に明瞭に説明され、無視されがち…
Louden (1986) Kant’s Virtue Ethics 今回紹介するラウデンの論文は、カント倫理学が徳をどのように問題にしていたのかを、義務論倫理学の体系を守りながらも積極的に論じているバランスのよい論文である。最近翻訳が出版されたオニールの『理性の構成』に所…
Barbara Herman, The Practice of Moral Judgment. Cambridge, Haward University Press, 1996, pp. 73-93より。 ハーマンのこの論文は、格率の普遍化テストを意味あるものにするためには、状況に対する感受性が行為者に内面化されていなければならないと主…
ここでは、Timmermann (2016) の „Kant Über Mitleidenschaft“を紹介する。これはKant-Studien,107 (4), pp.729-732に収められた短い論考である。Mitleidenschaftというドイツ語は、翻訳者たちは見過ごしてきた馴染みがない表現 (ungewöhnliche Ausdruck) で…
英語圏やドイツ語圏のカント倫理学研究を独断と偏見で選定し紹介する試みを始めます。ほんの少しでもカント倫理学に関心のある方の参考になれば幸いです。 これは、Bittner (2001) "Doing Things for Reasons"の第三章「原理に基づいて行為すること」(Acting…
『基礎づけ』第三章の議論の構造 (Ⅳ 446-463) まずは、参照されることも多いSchöneckerの解釈を軸にまとめる。 Schönecker, Dieter (1999) Kant: Grundlegung Ⅲ: Die Deduktion des kategorischen Imperativs, Freiburg/München: Verlag Karl Alber. ★『基礎…
第二章 ⑤ [Ⅳ, 440-445] 道徳の最高原理としての意志の自律 道徳の最高原理の探究は、序言で言われたように本書の課題であったが、それが「意志の自律」であることがここで明らかになる。 ☞このことは、「道徳性の概念のたんなる分析によって十分に証明され…
第二章 ④ [Ⅳ, 430-440] 〇意志の第三の実践原理:自律へ 目的自体の原理は純粋理性から発現する。 ☞あらゆる理性的存在者にかかわる:普遍性+主観的目的を制限する:客観的目的 *実践的立法の根拠は客観的には法則としての規則の普遍性にあり、主観的に…
第二章 ③ [Ⅳ, 420-430] 〇定言命法の内容 格率が法則に合致しなければならない、という必然性のみ ⇩ 「格率が普遍的法則となることを、格率を通じて君が同時に意欲することができるような格率にのみ従って行為せよ」(Ⅳ, 421) *この定式化によって、義務の…
第二章 ② [Ⅳ, 412-420] 〇意志=実践理性 理性的存在者だけが法則の表象に従って行為する能力[=意志]をもつ。 ☞法則から行為を導き出すには理性[=原理の能力]が必要 ⇩ 意志=実践理性 理性が意志を必然的に規定する場合[→人間は含まれない] ・行為は主観…
第二章 ①[Ⅳ, 406-412] 二章のタイトル:通俗的道徳哲学から人倫の形而上学への移り行き *今回扱う箇所は一章を振り返って二章の議論へ移行するための準備みたいなもの 〇義務に基づいた行為への正当な疑問 一言で言ってしまえば、本当にそんな行為あるん…
第一章後半[Ⅳ, 397-405] 〇生命を維持する義務 人間は生命維持への直接的な傾向性をもっている。 ☞たんに生命維持をすることは義務とはいえない(=道徳的な内容を持っているとは限らない)。 ・では、どのような場合に道徳的な内容を持つのか (厳密に言…
第一章前半 [Ⅳ 393-397] 第一章の道筋 ☞常識で理解できる道徳性としての善意志の概念から分析的に義務の概念に至り、義務に基づいた行為のみに道徳的価値が認められるとする。 〇善意志 「世界のうちに、いやそれどころか世界の外であっても、無制限に善い…
『道徳形而上学の基礎づけ』(以下『基礎づけ』) の底本としてはアカデミー版カント全集を用い、引用については巻数をローマ数字、頁数をアラビア数字で示す。翻訳は基本自分のものであるが、参考にした訳としては以文社の宇都宮訳、岩波版カント全集の平田訳…
最近、シラーの『優美と尊厳について』を簡単な訳注つきで全訳しようと試みています。そんなことをしているうちに、ちょっとシラーの倫理学を若干真面目に紹介したくなりました。引用とかしっかりページ数を示していないのは、今回の紹介の内容上のいい加減…
今回は、先日行われた哲つくばの発表原稿になります。読みやすいように若干改訂しましたが、ほとんどこのまま喋りました。ご参照ください。 義務論として広く知られるカント倫理学の基礎、批判、展望をざっと見ていくことになります。カントは道徳的価値は義…
カントの啓蒙論は啓蒙の時代と呼ばれる18世紀のドイツで生まれた思想でありながら、「自分の頭で考える勇気をもたない未成年状態からの脱却」という議論には、今日性を感じます。当時が抱えていた時代性 (特に顕著なのは宗教・信仰に関わる事柄) と現代に生…
前回の続きです。予告通り、個人の自由・自律と共通善の対立として、公衆衛生の倫理学について簡単に書きたいと思います。 医療倫理と公衆衛生の倫理学 医療倫理の問題として盛んに議論されるトピックは、パターナリズムと個人としての患者の自己決定の問題…